カンナのこと

tataraの制作には、古来から伝わる日本独自のたたら製鉄法でつくられる玉鋼(たまはがね)のカンナが使われています。
希少なこの製鉄法を今に伝えるのは、兵庫県三木市の熟練の鍛冶屋・大原氏。地元千種川を何度もさらって大量の砂鉄を集め、三日三晩、その砂鉄と木炭を炉に入れ焼き続けます。そして砂鉄が還元されてできた "鉧"(ケラ)からは、最先端の製鉄技術でも及ばない高純度で硬く粘り強い玉鋼が取り出されます。さらにその玉鋼に何度も焼きを入れ、叩き、刃物として切れるための組成に鍛錬してひとつのカンナを作ります。

長い間、大原氏は玉鋼のカンナの真価を理解し、使いこなせる職人に出会うことはありませんでした。ある日、縁あって大原氏は木工家・徳永氏に玉鋼のカンナを手渡します。試しに削ってみた徳永氏は、それまでのカンナとは次元の違う切れ味に驚いたそうです。
「これなら今までにないカンナ仕上げの椅子が作れるかもしれない。」
この出会いがカンナフィニッシュの椅子、tataraのはじまりでした。

木工家・徳永氏の仕事は刃物の砥ぎからはじまり、一日の終わりには明日のために刃物に油を注します。放っておくと刃物は酸化します。大原氏に倣うと、それは「鉄が"もとの姿"に戻ろうとすること」なのだそうです。砥ぎとは自然のものである鉄を、人に力を貸してくれる姿に整える作業と言えるかもしれません。そこには、自然や大地の営みと寄り添うような、工業製品とは違ったモノづくりの姿勢が垣間みられます。

木製家具で一般的なサンドペーパーフィニッシュは、こねるように木の表面を擦り、塗膜を馴染ませるために木肌をならす仕上げです。一方、カンナフィニッシュは木の素肌をさらします。玉鋼のカンナで削られた木肌は油分が浮き出てうっすら輝き、木目本来の透明感や美しい色艶が引き出されます。
また、一般的なカンナは、木の順目逆目にあわせて削る方向を変えなくてはならないため、いくつもの短い直線の重なりで曲線をつくります。一方、玉鋼のカンナは順目逆目にかかわらず部材の端から端までワンストロークで削りきれるため、一本の長い線で曲線をつくることができます。
そのひと振りの線は人の手が描く曲線そのもの。だからこそ、tataraのフォルムはいきいきと躍動し、使う人の身体に馴染むのです。